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ミステリおすすめ~ヘレン・マクロイ『二人のウィリング』~

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ミステリ好きな旦那さんのおすすめは、これだ❢ ミステリ通の人に、読んでもらいたい書評ですゾ 😎

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『二人のウィリング』1951年作 ヘレン・マクロイ著 渕上痩平訳 ちくま文庫

 

あらすじ

自分の名を名乗る小男の跡を追い、ある邸宅のハウス・パーティーに紛れ込んだ、精神科医ベイジル・ウィリング。そこには著名な精神科医を囲んで老若様々な男女が集っていた。

やがてウィリングは小男と共に会場を後にするが、事の次第を質そうとして入ったバー・レストランで小男は謎の死を遂げてしまう。男の正体は私立探偵だった。

彼はパーティー会場にいた盲目の老婦人の依頼で何かの調査に携わっていたことが判明する。だが、その男の死と前後して今度はその依頼主の老婦人が同じく死に見舞われてしまう……。これらの事件の背後には一体何が進行しているのであろうか。

 

書評

本書の特長はまず、ミステリー小説の巨匠ジョン・ディクスン・カーとその妻クラリスに捧げられていることでしょう。作品自体は画期的な内容を扱っていますが、極悪人を推理するのはそれほど難しくはありません。

途中から、カーとクラリスがモデルの人物がいないか穿鑿することになりました。本書には様々なカップルが登場します。

実生活のカーはひどいアル中だったと言われています。*クリスチアナ・ブランド談「彼は小説を書いている時以外はいつも酒を飲んでいました」また、必ずしも品行方正な人物とは行かなかったようです。心の堪えざる空隙を酒と創作で埋めていた典型的な文士だったのでしょう。

さて、作中人物を見てみると一人、アル中の男がいました。「肉付きのいい顔は赤みが差していたが、目つきはしっかりしている」口では理屈っぽいことを堂々のたまわっています。そのけばけばしい格好の妻の描写はこうです。「田舎の小娘のように純真な大きな目、短い鼻、高い頬骨をしていた」

彼らがカー夫妻をモデルにしているかどうかは永遠の謎ですが、夫妻の写真を見るにつけ興味の尽きない所です。イギリスでのカー夫妻はよくハウス・パーティーを催し、客人をもてなしたようです。「カー夫妻は彼らの新しいフラット(ロンドン北西、ハヴァストック・ヒルにあった)でしょっちゅう客をもてなした。……ジョンとクラリスは自分たちの部屋ではいつでも鉛筆と紙を使ったゲームをやり、しばしば“殺人ゲーム”も楽しんだ。」(『ジョン・ディクスン・カー〈奇蹟を解く男〉』国書刊行会より)

ヘレン・マクロイとの友誼もそのようなパーティー会場で育まれたのでしょうか。具体的な資料はありませんが、作品的にはカーはマクロイから相当な刺激を受けたことは想像に難くありません。非凡な人物観察に基づく巧みな人物描写は羨むところだったのではないでしょうか。

トリック的にもカー作品にはマクロイのものと同タイプのものが見られます。

気づいた範囲では『暗い鏡の中に』(1950 原型となる短篇は1948年発表)と『魔女が笑う夜(わらう後家)』(1950)のメイントリックがほぼ同一、フランス語にひっかけたトリックとして『逃げる幻』(1945)と『バトラー弁護に立つ』(1956)。

ここにも歯噛みをしているカーの姿が想像できそうです。あくまで常識に留まってストーリーを組み立てるか、それとも想像力に任せ突飛なストーリーを展開するか。二人の創作の姿勢の違いを読み比べてみるのも一興でしょう。

執筆者:徹(ペンネーム)

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