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ラ・フォル・ジュルネ TOKYO2019「ボヤージュ─旅から生まれた音楽(ものがたり)」の鑑賞記録

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2019年のテーマは「ボヤージュ─旅から生まれた音楽(ものがたり)Carnets de voyage」ということで、音楽が紡ぐ世界観光、異国情緒や各地特有の感性を満喫するという贅沢なものです。丸の内一本に絞ったプログラムは例年の如く魅力に富んでいましたが、チケット料金は値上がりし、泣く泣く断念した公演もありました。しかし、その渇は無料コンサートで癒すことができ、十分埋め合わせができたと思います。丸の内全体が音楽タウンになるのが、何よりの贅沢です。通りすがりに流れる天使の歌声(「ジャンニ・スキッキ」より「私のお父さん」)、流麗なピアニストの指使いに心奪われる、そういう瞬間を大切にしたいひと時でした。

ラ・フォル・ジュルネ TOKYO2019 5/3金~5/5日

ゴールデンウイークの3日間で鑑賞したコンサートは、有料コンサートが7つ。丸の内無料コンサートは特に印象深かった小林倫子氏の演奏を記録しました。

5/3金  梁美沙ヤン・ミサ(vl)
ウラル・フィルハーモニー・ユース管弦楽団 
リオ・クオクマン(指揮)

フロレンツ:交響詩「クザル・ギラーヌ(赤照の砂漠)」

ブルッフ:スコットランド幻想曲

昨年聴きそびれた梁美沙が同じプログラムで再登場ということですので、迷うことなく会場に詰め掛けました。長身のすらりとした女性です。期待にたがわぬ、伸びやかで素晴らしいヴァイオリンです。癖がなく、遅めのテンポで丁寧に旋律を紡いでいきます。緩急をつけたドラマ性とは無縁で、一服の清涼剤のような味わいでした。前半のフロレンツの交響詩もメシアン風の響きで聴きごたえがありました。

5/3金 青柳いづみこ(pf)&高橋悠治(pf)

イベール:物語から

ミヨー:屋根の上の牡牛 ピアノ連弾

オーリック:アデュー・ニューヨーク ピアノ連弾

連弾の妙味を堪能しました。「屋根の上の牡牛」はヴァイオリンとオーケストラ版、ヴァイオリンとピアノ版が一般の演奏スタイルでしょうが、このピアノ連弾版もなかなかの味わいです。メイン・テーマの狭間に憂鬱な独白の旋律が挟まり、何時まで続くかと思われる音楽……。ピアノ版も良いではありませんか。アンコールも秀逸でした。フランスの風味に料理されたワーグナーの「指環のテーマ」は清新な響きに包まれていました。

(アンコール)

フォーレ&メッサジェ

バイロイトの思い出 ピアノ連弾

5/3金 
グランド・ツアー: 
バロック音楽集でのヨーロッパ諸国巡り 
別所哲也(語りを兼ねた主人公)
アンサンブル・マスク

オリヴィエ・フォルタン(チェンバロ、アコースティック・ディレクター)

少年が親元から離れ、一人ヨーロッパ周遊の旅に出る。その訪れた先々から父親へ近況報告の手紙を出すというストーリーに合わせ、音楽が間に挟まる形で全体が進行します。少年は船旅の不安に怯え、社交界での恋愛、教会における宗教的儀式などを経験するうちに、少年から大人へと門を潜っていきます。音楽も少年の成長に合わせて、密度の濃いものになっていくようでした。やはりマルチェッロ、コレッリ、テレマンが感銘深かったです。白いスーツに少年の面差しの別所哲也氏が淀みない語りで力演されました。

5/4土 
“Cor di memoria”地中海のポリフォニー 
タヴァーニャ(コルシカの男性声楽アンサンブル)

親から子へ、子から孫へと歌い継がれるイタリア地方の伝統音楽。限定的地域的なるが故の普遍さを帯びていて、会場を包む説得力があったと思います。ラテン語の教会歌以外はコルシカ語で歌われましたが、歌詞同様、区別がつきません。何よりも初老男性の気品ある歌声に心ほだされました。曲は男性独唱から始まり、数人がそれに和し、全体合唱へつながるという構成が多かったです。次の教会歌の歌詞が印象的でした。「死とは信仰であり、生命である」

ラフォル・ジュルネらしいプログラムでした。

5/5日 
戸田弥生(vl)&アブデル・ラーマン・エル=バシャ(pf)

バルトーク:ルーマニア民族舞曲

バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第1番

実力派二人による夢の共演です。

ソナタの1番で前半が完全に霞んでしまいました。この音の集合体をどう表現したらいいかわかりません。メロディーラインの否定。音にすがろうにも音が次々に滑り落ちていく……バルトークかくや、という音楽でした。現代音楽も主要なレパートリーに据えている戸田さんは、絶好調だったのではないでしょうか。写真よりも遥かに見栄えのする方でもあります。

5/5日 井上道義&新日フィルハーモニー管弦楽団

伊福部昭作品

二十絃箏とオーケストラのための交響的エグログ

滝田美智子(箏)

日本組曲から 盆踊、演伶(ながし)佞武多(ねぶた)

いつもの絶妙なトークを期待しておりましたが、残念ながらありませんでした。その代わりにダイナミックなアクションを伴う指揮ぶりに魅せられました。前半は、演奏される機会の少ない珍しい箏の協奏曲。繊細な調べに心奪われました。「日本組曲」は打楽器・管楽器を派手に鳴らす壮大なもので、西洋音楽とは一味違う趣でした。

5/5日 小曽根真(pf)フランク・ブラレイ(pf)
シンフォニア・ソルヴィア ミハイル・ゲルツ(指揮)

ガーシュイン:ラプソディ・イン・ブルー

ラヴェル:ピアノ協奏曲ト長調

音響は最悪でしたが、小曽根氏のアドリブが絶妙で、ガーシュインの魅力を余すところなく満喫させてくれました。続くブラレイ氏のラヴェルは草書風のクールな佇まいで、これもなかなかの味わいでした。

丸の内エリア・無料コンサート 
5/5日 小林倫子(vl) 津嶋啓一(pf)

ウィリアムズ:グリーンスリーブスによる幻想曲

スタンフォード:アイルランド狂詩曲第6番

サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチョーソ

アンコール

クライスラー:愛の挨拶

2年ぶりの小林さんのヴァイオリンです。イギリスとスペインの郷愁に満ちたお馴染みの名曲の数々。夢のひと時を過ごしました。折り目正しく素直な響きは、リラクゼーション効果満点でした。

☆他に地下のキオスクステージで、曽我大介指揮、アマデウス・ソサエティー管弦楽団/一音入魂合唱団の演奏(ワーグナーとシベリウス)を短い時間ながらも楽しみました。

きめ細やかなスタッフ対応も良く、全体に大満足の三日間でした。悲観的意見も多いなか、来年もこの一大イヴェントが開かれることを願ってやみません。

                               writer: 徹

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