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ヘレン・マクロイの運命を決めた第二長編、待望の邦訳!!!ミステリ通が、『月明かりの男』1940年作の読み方を指南します。

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こんにちは、かりんです。ミステリ好き30年以上の旦那さんが、ヘレンマクロイの新作について寄稿してくれました。

ヘレン・マクロイの運命を決めた第二長編邦訳なる!『月明かりの男』1940年作  あらすじ

 

あなたが晴れて第一グループの殺人者に選ばれたことを、ここにお知らせします……

 

息子の進学する大学の構内を歩いていたニューヨーク市警のフォイル警視正はこのメモを拾い、眉をひそめた。

これは誰かを殺そうとする犯罪計画ではないだろうか。

 

さらにフォイルは大学の実験室で奇妙な心理テストを繰り広げる、一癖も二癖もある教授たちと知り合う。その実験で使用されていたリヴォルヴァーが行方不明になるに及び、俄然迫りくる犯罪の気配が濃厚になった! 満月の夜、犯行現場と目されるホールに歩み寄り、茂みの影から玄関を監視するフォイル。だが時すでに遅し、一発の銃声が闇をつんざいたのだ……。建物から逃げ去る容疑者を三人の人物が目撃していた。だがその目撃証言は三者三様だった!

 

犯人は「背が高く、がっしり体型の男」なのか「おぼつかない足取りの小男」か、はたまた「ハイヒールを履いたイブニングドレスの女」なのか。なぜ目撃証言はかくも食い違い、誰が嘘をついているのだろうか……。

 

『月明かりの男』の読み方

著者にとって重要な第二作です。ここで波に乗れるか、落っこちるかでその後の作家人生は決すると言っていいでしょう。

そして、彼女は見事にそれを乗り切り、続く傑作群をものしていったのです。

 

しかし、最初の100頁は古典的展開過ぎて、退屈・時代遅れの観が否めません。しかしそこから先、魅力にどっぷり浸かれる要素あり。

古典を読み慣れた読者には、またかと思われてしまうでしょう。舞台も大学構内ですので、余計地味さに拍車がかかります。

けれども、そこを我慢して100頁を過ぎると、キャラクターの魅力に気づき、小説世界にどっぷり浸かれることになります。

 

月明かりの男作品の魅力は?

魅力を感じるのは、何といっても中国系の異常心理学の大学教授です。

この存在の生々しさ、発言の節々がつぼに嵌まり、ペダントリーも嫌味がなく必然性を帯びています。

さらに、気分を落ち着かせるために時折取り出す紫水晶のお守り。主役のウィリングを食ってしまいかねない、ベスト・キャラクターだと思います。

女性陣は総じて魅力に乏しく、ただ後にウィリングと結ばれる女性が、謎めく存在として描かれます。亡命者としての出自が明かされるのですが、真意がつかみ取れず、作者ともども読者はやきもきします。

 

これまでウィリング・シリーズを読んでこられた方には、今回も何かニューロティックな展開・仕掛けを期待する向きもおられるのではないでしょうか。前半は地味なのでないかと思いきや、後半しっかり登場し、さすがマクロイと思わせます。満月の夜とくれば、小説の展開として狼男だけでなく精神に異常をきたす人物が現れてもおかしくはないですね。

 

『月明かりの男』の斬新さに着目!

斬新なのは、そのニューロティックな要素だけではありません。犯行の動機に着目です。

ミステリであるからには犯行動機の重視は当然ですが、この小説では特に広く社会・経済的視野に根差した動機が設定されています。謎解き小説にこの画期的な動機は、当時時代の先端を行くものだったと思います。経済企業ミステリの走りともいえるでしょう。動機のテイストは『小鬼の市』に似ていますね。

 

魅力的な大学教授、満月の夜のニューロティックな展開、そして大胆な犯行動機。後半は読みどころ満載です。もちろん、目撃証言の食い違いも、心理的合理的に説明されます。精神科医ウィリングの多少はったり感のある名推理ともどもご堪能ください。中秋の名月はとうに過ぎてしまいましたが。

 

 

クリスチアナ・ブランドの本格ミステリとの違い

共に人間が描け、多彩な作風、凝りに凝った本格で人気を博しましたが、決定的に違うのは、遊びの少なさです。

『月明かりの男』とほぼ同時期に書かれた『切られた首』(1941年)を例にとりましょう。

ニューロティックな、印象深い犯人が登場するものの、読者を強引に謎解きに参加させようと強制するため、後味が悪いのです。

脇道が少なく、途中息を継ぐことができません。

例えれば、遊びのほとんどないハンドルで高速道路を突っ走らせられる感じです。乗ったが最後、途中で降りられませんし、パーキングエリアに寄ることもできません。

しかも、作者が読者に仕掛けるあざとく無意味なトリックもあり、これでは本格ファンの不興を買うのももっともだと思われます。マクロイにはそれがありません。ぺダンティックな遊びもあるし、筋立て・トリックに作者の常識が反映され、無理なく浸ることができるのです。

 

執筆者 徹

 









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