クラシック音楽&ライブ鑑賞

2016 ヒラリー・ハーン コンサート@フィリアホール&横浜みなとみらいホール

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以前の記事、"ヒラリー・ハーン2016年来日!グラミー賞受賞の名盤『27の小品』 ヒラリー・ハーン・アンコール" に引き続き、主人のヒラリー・ハーン・コンサート記録です。

 

 

2016年 ヒラリー・ハーン コンサート(ピアノ:コリー・スマイス)

 

◆6月4日(土) フィリアホール

◆6月12日(日) 横浜みなとみらいホール

 

2016年ヒラリー・ハーン コンサート曲目

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタK.379

バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番

アントン・ガルシア・アブリル:無伴奏ヴァイオリンのための6つのパルティータより

第2曲「無限の広がり」第3曲「愛」

コープランド:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ

ティナ・デヴィッドソン:地上の青い曲線

(アンコール)*「フィリア」での順番

マーク・アントニー・ターネジ:ヒラリーのホーダウン

佐藤聰明:微風

マックス・リヒター:慰撫

ヒラリー・ハーン画像

 

原点から未来へ

初日のフィリアと最終日のみなとみらいに行きました。きらびやかな音に満腹状態で、非常に満足度の高いコンサートでした。2時間20分があっという間に過ぎました。

 

特筆すべきは、

伸びやかで振幅の大きい輝かしい音質です。2001年の初リサイタル当時の音色がスケールアップして甦ったようです。個人的に、今回のワールドツアーヒラリーにとって原点回帰、そして未来への架け橋の意味があったと解します。

原点とは、生じる音の一音一音を確かめること、全ての基本であるバッハの音楽を彫琢すること。

架け橋の意味は、その基本を押さえた上で、現代作品を演奏して未来へと音楽をつないでいくこと。

バッハアブリルの近現代の無伴奏をモーツァルトコープランドという、これまた近現代のヴァイオリン・ソナタでサンドイッチする。結びは「アンコール・ピース」の小品で締めて、続くアンコールへの橋渡しを行なう。良く考え抜かれたプログラムです。また、一般に知られた通俗曲はほとんどありません。自信と勇気溢れるプログラミングであり、アーティストの真価が問われるものだと言えるでしょう。

 

モーツァルトとコープランドを持ってくることに、まず驚きます。

古典主義新古典主義の作品で共に一音たりともごまかしが効かず、如何に聴かせるかがポイントとなります。

録音で聴く限り、平板でそれほど面白みのある作品とは思いません。モールァルトは一楽章の入りのヴァイオリンの重音に心惹かれますが、メロディーと構造のシンプルさのため、すぐ聴く側は退屈してしまいます。が、演奏者から見れば、古典曲から一音一音を確かめ、構築するという意図があったのだと思います。

フィリアではあっさりしていましたが、みなとみらい公演では、かなりアゴーギグを効かせて成功していたと思います。スマイス氏のピアノは相当アレンジが加わっていたようです。

コープランドは作曲者自身のピアノによるYouTube音源で予習していきました(ヴァイオリンはRuth Posselt)。これも、三楽章こそ躍動感・高揚感があるものの、一楽章・二楽章は単純の極みであまり面白くはありません。フランス風の入りからアメリカ風のサウンドへと変わっていくのが魅力です。二楽章は単純な二分音符の音階をピアノとヴァイオリンが輪唱形式で繰り返していく構造です。音を確かめ共に音楽を構築していく姿勢が求められます。

モーツァルトにも言えますが、ポイントは確実に正確な音を出すことと共演者と協調して音楽を作り上げることです。音あっての音楽、その音を出すことと共演者と音のタペストリーを作り上げること、さらには聴衆をその音楽で納得させること。二楽章の音階を聴きながら、ヒラリーの意図が感じ取れた気がします。コープランドも全体にあっさりした草書風の演奏でした。三楽章の盛り上がりなど、もうすこし角があってもいいかなと思いましたが、伸びのあるきらびやかな響きがそれを補って余りありました。

 

無伴奏のバッハは文句なしに素晴らしい。

11年前にオペラシティで聴いたときよりもスピード感があり、力強く、ポリフォニックだったと思います。ロー・ギアであるG線の踏み込みが強力であり、巧みに音楽を手繰り寄せ、解き放っていく様は圧巻でした。「ラルゴ」は淡白な表情ながら情感豊かで、逆に感情を揺さぶられました。「アレグロ」は力を抜いて余裕綽々、貫禄たっぷりでした。名指揮者カール・シューリヒトの表現をヴァイオリンで実現したと言えるでしょう。

「アブリル」はイザイ風音階やスペイン風メロディーを漂わせているうちに、やがて「第3の溜息」のアブリル節全開となります。作曲家特有の閉塞感・やるせなさが表現されました。

 

最後のデヴィッドソン「地上の青い曲線」は、実演で聴くと相当な難曲であることがわかります。

最後のメロディーが登場する前の高音の輪舞が特に難しそうでした。終り間際、ヒラリーは弱音を美しく響かせ、見事に締めくくりました。

 

アンコールは3曲。

岡村孝子にも「微風」という佳曲がありますが、佐藤の「微風」も劣らず気に入っています。アンコールでやってくれないかと思っていたところ、的中しました。思わず歓喜です。そして、みなとみらいでの「微風」は最高でした。この日のヒラリーの弱音は冴え渡っていたと思います。「慰撫」は惜しみつつ閉じるという感じで、演奏会の終りに相応しい曲ですね。

なお、フィリアみなとみらいではアンコールの「微風」「ホーダウン」の順序が逆でした。スマイス氏のピアノは繊細で表現豊か、ヒラリーに寸分たがわず寄り添い、最高のアンサンブルでした。

執筆者:徹(ペンネーム)

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