こんにちは、かりんです。
この記事は、2013年goo blog『いつもココロに栄養を』に主人が寄稿したものです。
ヒラリー・ハーン来日に寄せて、2013年11月時点での『ヒラリーハーン論』を語っております。
2015年3月改稿 ヒラリー・ハーンが2013年11月にニューアルバムを引っさげて来日します。
そこでささやかですが、ヒラリー・ハーン論を綴ってみたいと思います
ヒラリー・ハーンの優れているところ
- 音程が正確でミスが非常に少ない。一音一音が手に取るように聞き取れる。
- 一音も聞き逃せず、音楽に集中できる。
- 音色が明るく美しい。聴いていて気持ちよい。
ヒラリー・ハーン、ここが面白くない!
- 音が聞き取れすぎて疲れる。
- 技術がありすぎて、粘ってほしい所や歌ってほしい所が、あっさり奏されて肩透かしを食う時も。
- 初期はのっぺりした演奏、フレーズの最後の音符を引っ張る癖や、ビブラートをかけすぎるなどの気になる要素(オーケストラメンバーを見回すことも)があったが、改善されている。
- 作品解釈が浅く、作曲者の作曲意図まで踏み込んで演奏していない。
これは一面の捉え方であり、極めて客観的に作品を解釈していると言うべきでしょう。ヒラリーの目指すのは平凡の非凡なる演奏です。
ヒラリー・ハーン、最も優れているところ
- それは抜群の調整力
- プロの奏者として世界中を飛び回り、ハードなスケジュールをこなしている者なら誰でも好不調の波はあるもの。それを最小限に止め、常にベストの演奏を目指すのがヒラリーです。
- どこかおかしいと感じたら、すぐ基礎に立ち返って音階練習・基礎練習、もしくは基本のバッハに戻るなどの姿勢が演奏の類まれな安定をもたらします(BBC MUSIC誌のインタビューより)。
- ただし、コンサート・ツアーとして一定期間来日中、どこに調子のピークをもってくるかは当然考えているのでしょう。最初の方はジェットラグなどの影響で必ずしもベストの形ではないようです。
2009年の来日リサイタルは、ツアー後半の栃木の壬生で聴きましたが、これ以上は望めない状態でした。
スターダムに乗らない姿勢
ヒラリーにスター・巨匠気取りはありません。スター・巨匠になりたくもないのでしょう。あくまでも普通のヴァイオリン奏者でいたいのでしょう。
スター・システムに乗せたいのは、取り巻き連中、CDをイメージでヒットさせたいレコード会社と高額な出演料で儲けようというエージェント側だけです。
発表CDもシベコン以降、現代曲やマイナー作曲家をメインに据えたり、プリペア ドピアノのハウシュカとのコラボレーションを出したりと、クラシックの定番路線を意図的に外しているのは、そういうヒラリーの「反発心」の表れなのでしょうか。
素顔のヒラリーは、素朴な飾り気ないカントリー・ガールと感じます。
ヒラリー・ハーンの今後
このハードなスケジュールを何時までもこなし続けられるとは思えません。演奏回数・来日は当然減少すると考えられます。
反面、表現は変わってくるかもしれません。振幅の大きさ、よい意味での「崩し」を 期待したいところです。
ヒラリー・ハーン、ベストCDとベスト音源
CDでは、クールな落ち着きが前面に出てしまい、ヒラリーの真価が発揮されているとは言えないようです。
その中でも個人的なお奨めは、ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ジンマン指揮ボルティモア交響楽団 です。
バックのがっちりした響きにヒラリーの繊細なヴァイオリンが紡ぐ調べは、さながら谷間の百合のようにあえかな気品を湛えていて、魅力あるものになっています。
ヒラリー・ハーン、ベスト来日コンサート
ヒラリーの来日公演を振り返って見ます。
2000年 ベルリン・フィルとの共演(ベートーヴェン協奏曲、ショスタコーヴィッチ1番)
2001年 リサイタル(pf:ナタリー・シュー)
2005年 リサイタル(pf:ナタリー・シュー)
N響との共演(プロコフィエフ1番)
2006年 ドイツ・カンマーフィルとの共演(ベートーヴェン協奏曲)
リサイタル(pf:イム・ヒョスン)
2008年 BBCフィルとの共演(シベリウス協奏曲)
2009年 リサイタル(1リサイタルはシンガーソングライター、ジョシュ・リッターとのコラボ/他はpf:ヴァレンティーナ・リシッツァ)
2010年 フィルハーモニア管弦楽団との共演(チャイコフスキー協奏曲)
2012年 フランクフルト交響楽団との共演(メンデルスゾーン協奏曲)
リサイタル(ハウシュカとのコラボ)
2013年 リサイタル(pf:コリー・スマイス)
バーミンガム市交響楽団との共演(シベリウス協奏曲)
2015年 フィルハーモニア管弦楽団との共演(ブラームス協奏曲)
この中でオケとの共演でのベストは、フィルハーモニア管弦楽団とのチャイコフスキー、
リサイタルでのベストはハウシュカとのコラボ・ライヴです。
個人的な感想ですのでご了承ください。
チャイコフスキーではコンディションが良く、アンコールまで含めてヒラリー節を堪能しました。池袋芸術劇場とサントリーで解釈を微妙に変えてきたのが印象深かったです。遅く、とことん歌いぬいた演奏です。
ハウシュカとのライヴは、全てインプロヴィゼーション(即興演奏)でした。プログラムもなければ、曲名もないという前代未聞のライヴ。
この夜は終わってあれれという感じでしたが、過ぎ去ってみて凄さが募ってきました。
内容は自然の息吹(風雪、潮流、気流)、大地の鳴動、存在のはかなさ、などプリミティヴな感興を綴ったミニマル・ミュージックに近いものでした。終演後、ブー垂れている輩が一人いましたが(音楽を知らないのでしょう)、これもライヴならではでしょう。
ベストライブ音源(ラジオ放送音源、youtube音源、ネットアーカイヴ音源)
こちらは当然ながら全てをフォローしていません。各放送局に管理されている音源は膨大な数に登るはずです。中には深夜の時間帯に聴いたものもあります。
最近はパソコンのステレオミキサー機能、ICレコーダーを使ってyoutube音源、symphony cast、Saint Paul Sundayなどのネットアーカイヴ音源を録音し、CDに焼いて楽しんでいます。
もちろんNHK-FMで流れるライヴは極力録るようにしています。昔は秋葉原の石丸電気に放送音源のCD-Rが一枚2500円ほどで販売されていました。そのCD-Rでヨーロッパ・デビューのものは所有しています。
さすがにライヴは凄いです。グラズノフ、メンデルスゾーンの第1楽章、ブロッホのソナタはファン必聴でしょう。
その中での個人的なベストをあげるとすれば
ショスタコーヴィッチ:ヴァイオリン協奏曲1番 デュトワ指揮フランス国立管弦楽団 2002年ライヴ です。
ヒラリー・ハーンなくしてショスタコーヴィッチのこの曲の隆盛は考えられません。ヒラリーによってこの曲は初めて現代的な装いで甦ったのです。
この曲の誕生の経緯はつとに知られていますが、ヒラリーはその背景を取っ払って曲そのものの魅力を存分に開示します。
3楽章の美しさは特筆すべきです。歌の濃やかさは女性ならではでしょう。
2楽章は演奏する側にも聴く側にも難しい曲です。力で押せない女性奏者には厳しいものがあるかもしれません。ヒラリーはこの困難をスピードで切り抜けようとします。
長いカデンツァを経て諧謔の4楽章もヒラリーは疾走します。
スタジオ録音と違い、細部に緩さがあるのですが、所々で溜めを効かせているので一気に聴きとおせます。この躍動感、瑞々しさ、さらに歴史的意義を考慮に入れ、ベストにしました。
今度の来日のシベリウスはどんな演奏になるのでしょうか。今から楽しみです。
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執筆者 徹
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